なぜハーレーはスペックで劣るのに売れるのか?

最近暖かくなってきたので、よくバイクに乗っている。
僕が乗っているのはハーレーダビッドソンというアメリカのバイクだ。

なぜ、僕がハーレーを選んだのか。

現在は違う様ですが10年ほど前、国内のバイク市場が右肩下がりを続ける中で、ハーレーだけが右肩上がりに成長しているという話を聞いた。

これは面白い、と。僕の知らない世界観がそこにはあるはずだ。そう思い、ずっと乗ってきた国産車からハーレーに乗り換えてみることにしたんだ。

正直、驚いた。値段は国産車の倍近くする。スペックだけ見れば、国産車の方が圧倒的に優れている。軽くて、静かで、そして何より壊れない。ハーレーはその真逆だ。重くて、うるさくて、壊れやすい。修理にも時間とお金がかかる。

どう考えても「不便」でしかない。 しかし、その不便なバイクが、市場で選ばれ続けていた。この逆説に、僕はビジネスと人生における極めて重要なヒントが隠されていると直感した。

■ 「ナンバーワン」と「オンリーワン」の決定的な違い

この現象は、「ナンバーワン」を目指す競争と、「オンリーワン」であることの強さの違いを明確に示している。

多くのビジネスは「ナンバーワン」競争に陥りがちだ。「あそこより優れています」「どこよりも安いです」という、表面的なスペックの戦い。しかし、この土俵にいる限り、常に他者との比較に晒され、価格競争から抜け出せない。

一方でハーレーは、「オンリーワン」の道をいく。スペックでは語れない独自の世界観、物語、そして熱狂的なコミュニティがある。だから、値段という重要なファクターの優先度が低くなる。「高くても欲しい」「不便でも乗りたい」という、指名買いが発生するんだ。

これは、人が「値段」ではなく「価値」でモノを選んだ瞬間に他ならない。

■ 「価値」を選ぶための“前提条件”

では、人はなぜ、あるモノには安さを求め、あるモノには価値を求めるのか。同じ人間なのに、スーパーでは安い米を選び、ハーレーは高くても買う。この消費マインドの違いはどこから来るのか。

僕がたどり着いた答えは、そのモノに対する「前提条件」の違いだ。そして、その前提を作るのが「情報の量」である。

バイクに乗りたい、と思ったとき、その動機が「通勤で楽に移動したい」という前提であれば、選ぶ基準は燃費や価格になるだろう。しかし、「ハーレーで週末に旅をする、あのライフスタイルに憧れる」という情報(物語)に触れた後では、バイクは単なる移動ツールではなくなる。

前提が変われば、選び方が変わる。選び方が変われば、値段は問題ではなくなるんだ。

■ なぜBONIQは安売りをしないのか

この学びを、僕は自身のビジネスである「BONIQ」に注ぎ込んだ。僕が低温調理器の事業を始めたとき、市場に競合はいなかった 。国内初の低温調理メーカーとなり、売上を上げるだけではなく市場そのものを作る任務があった。

だからこそ、市場と作りながらも一定のポジションを維持する為には安さを武器に「ナンバーワン」を目指すのではなく、ハーレーのような「オンリーワン」の選ばれ方をしようと決めた 。

BONIQは単なる調理器具ではない。「食を通じて、人生を飛躍させるツール」である 。
市場を作るには安易に物を売ろうとすると、一過性のブームとして飲み込まれるリスクがある。

価値を届けるためには、低温調理の科学的な研究、安全性の検証、膨大なレシピ開発、そしてそれらを伝えるマーケティング活動に、莫大なコストがかかる 。

だから、僕らは安売りをしない。というよりも、仕組み上安く売ることは意味をなさないので他の会社にお任せするしかない 。僕らが届けたいのは、値段の裏にある本質的な価値だからだ。

■ 「価値」で売るために、「価値」で買う生き方

ここで重要なことに気づく。 「オンリーワン」の価値を人に伝えたいなら、まず自分自身が、普段から「価値」でモノを選ぶ人間でなければ、その感覚は表現できない。いつも一番安いモノを探している人が、高価なブランドの価値を心から語れるだろうか?

この気づきから、僕はお金を使うすべての瞬間に「これは本当に自分にとってベストか?」と考える癖がついた。

例えば、家で使う「ほうき」を一本買うとする。以前ならホームセンターで「それなりに良さそうなもの」を適当に選んでいただろう。しかし、「ほうきの材質や使い勝手、歴史」といった情報を自分の中に入れてから選ぶと、それは全く別の行為になる。

理由を持って選んだモノは、自分にとっての「エネルギー値」が変わるんだ。

■ あなたの身の回りのモノは、エネルギーを放っているか?

ぜひ、あなたの部屋を見渡してみてほしい。そこにあるモノ一つひとつについて、「なぜこれを買ったのか」という明確な理由を語れるだろうか。

「100均で安かったから」と適当に買ったコップと、「この薄さが口当たりを変え、ビールの味を最高にする」と理由を持って選んだコップ。同じコップでも、後者はあなたの人生を豊かにする情報的価値を含んだエネルギーを放っている。

人生とは、無数の選択の連続だ。その一つひとつの選択に、どれだけ自分の意志と哲学を込められるか。何も考えずに100個のモノを買った人間と、一つひとつに理由を持って100個のモノを買った人間とでは、人生の深まり方が全く違ってくる。

値段ではなく、その裏にある価値を知ろうとすること。 そして、自分の身の回りを、理由を持って選んだ愛すべきモノたちで満たしていくこと

その小さな習慣が、無駄な消費をなくし、あなたの人生の解像度を劇的に上げてくれるはずだ。


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